書評:「写真で食べていく」ための全力授業

「写真で食べていく」ための全力授業これまでに”写真と仕事”をテーマにした本を何冊か読んできましたが、今までで最も素晴らしい良書に出会えました。アマゾンで偶然、発売前に本書の存在をキャッチし、表紙と目次を見ただけで即、予約注文しました。著者は数多くの写真集などを出版されている写真家の青山裕企さんで、恥ずかしながら本書をきっかけに青山さんの存在を知りました。これから「写真家」または「カメラマン」を目指される方には是非とも読んで頂きたい一冊です。

目次は大きく6つに別れており、学校の授業のように1時間目から6時間目までテーマごとに別れています。
また、現場の最前線で活躍されているカメラマン・写真家などのインタビューも掲載されています。

1時間目 「写真家」と「カメラマン」、どっちを目指す?

2時間目 写真の仕事の現在

3時間目「カメラマン」の仕事の流れ

4時間目 仕事を得るための営業の方法

5時間目 「お金」について、真剣に考えよう

6時間目 それでも「写真家」を目指したい君へ

私が目次を見て最も惹かれた部分が”写真家とカメラマンを明確に区別している”ところです。
写真・カメラ業界に関わっていない一般の方から見れば「写真家」「カメラマン」「フォトグラファー」はいずれも呼び方の違いだけで、意味合いは全く同じように思っているはずです。

まず、本書では写真家とカメラマンを以下のように区別しています。

  • 写真家=自分のために写真(作品)を撮る人
  • カメラマン=相手のために写真(仕事)を撮る人

<1時間目 「写真家」と「カメラマン」、どっちを目指す? >

私自身が”夜景写真家”を志した当時(2003年夏)は、漠然と写真家とカメラマンは違うイメージを持っていましたが、ここ数年は明確な違いを感じるようになっていました。私自身はカメラマンとしてお客さんからの撮影依頼を受けたケースは数えるほどで、ほとんど撮りたいもの(夜景)だけを撮っています。スタジオ勤務経験も弟子入り経験もありません。夜景が好きでとにかく夜景を追いかけ、撮影スキルを磨いてきました。

本題に戻りますが、本書でも触れられているように「写真で食べていく」こと自体はそれほど難しいことではありません。デジタル時代になり、プロ・アマ誰もが写真を撮る時代ですが、”カメラマン”としては食べていくことは難しくないはずです。ただし、”写真家”として食べていくことは極めて難しい現状が書かれています。

カメラマンは相手の期待に応え、相手が望む写真を撮ることで、対価を頂けます。しかし、写真家は自分のために作品を撮るため、その作品が評価されるには多くの労力やコスト、年数が伴います。写真家は機材は当然ながら、旅費など全ての経費を自分で負担し、作品を売るにしても、ギャラリーを開くために数十万円ものコストを負担します。それだけ労力を割いても売れるかどうか保証はありません。実際、本書で定義する写真家として生計を立てている人は国内にはほぼいないと言われており、私自身もその点は納得しています。

そのため、本書では写真家を目指すならまずはアルバイトをしたり、別の本業(もしくはカメラマン)を持ちながら作品活動を続けていくことを推奨しており、写真家としての活動にのめり込むことの危険性(破産のリスク)についても触れられています。著者の青山さんも「写真家」としての収入よりも「カメラマン」としての収入の方が多いようです。

<2時間目 写真の仕事の現在>

写真の仕事における現状が詳しく書かれています。フィルムからデジタルへの移行によって、
カメラマンの負担が増え、収入が下がる実態が描かれています。

対「会社」の仕事に関しては、広告・雑誌・ウェブのお仕事の進め方について、対「個人」の仕事についてはブライダル・家族・アーティスト・店舗などの撮影について解説があり、これから「カメラマン」として仕事を始めるにあたり、特に「個人」に注目しようという点が目から鱗でした。

<3時間目「カメラマン」の仕事の流れ>

「カメラマン」として仕事を進めていく流れが、詳しく紹介されています。カメラマンとしての心構えから打ち合わせや納品、請求などのワークフローまで流れがわかるようになっています。必要な機材、ライティングの知識の必要性など、プロのカメラマンとして押さえておくべきノウハウがしっかりと詰め込まれています。

<4時間目 仕事を得るための営業の方法>

駆け出しのカメラマンほど特に営業努力が必要だと思います。営業先へのアプローチの仕方から、営業に役立つポートフォリオ・名刺・パンフレット・ウェブサイトの作り方などが詳しく紹介されています。大半が「カメラマン」としての営業方法が紹介されていますが、後半は「写真家」向けに写真展を開催することの意義や写真集(ZINE)の制作について触れられています。

私自身は写真集を出版した経験が無く、2冊の著書はいずれも実用書になるのですが、出版社の方とお話していると「写真集は企画が通りにくい」と言われました。写真集は一般書に比べて印刷コストがかかり、部数も見込めないため、商業出版のハードルはとてつもなく高いようです。実際、出版社から発行される写真集であっても、実際は自費出版のケースが少なくないようです。

<5時間目 「お金」について、真剣に考えよう>

カメラマンとしての報酬の決めかたや見積書の作成、経費の申告に関することまで基本的な部分が網羅されています。カメラマン以外のフリーランスの方にも参考になる内容だと思います。後半には著作権・肖像権について解説があり、写真を撮る上での注意点が網羅されています。

<6時間目 それでも「写真家」を目指したい君へ>

2時間目~5時間目まで主に「カメラマン」向けの内容でしたが、6時間目は「写真家」を目指したい人へのメッセージが込められています。作品(写真)の販売方法から値段の付け方、”小商い”でポストカードやグッズを販売するコツまで紹介されています。

6時間目の内容を読むといかに写真家として生計を立てることが難しいかを痛感させられます。
現実はカメラマンとして仕事をしながら、写真家として作品を撮り続ける生き方が最も現実に思いました。もしくは、カメラマンの仕事をせずに撮りたい写真だけを撮るなら、定職についたり、アルバイトをしながら続けていく方が純粋に写真を好きでいられるように思いました。本職を持ちながらアマチュアで末永く活動するのもとても幸せなことだと思います。

【夜景写真家 岩崎 拓哉の総評】

私は本書を何度も読み返し、重要なところにマーカーを引いて、これまでの活動と照らし合わせました。私自身はカメラマンをしない代わりに日中はフリーのWebエンジニアとして活動しているため、今も昔も好きな夜景写真だけを撮り続けていくことができており、今後もWebと写真を両立していきたい思いを再確認できました。ただ、最近は旅行・観光も好きなので、将来は旅先での風景写真(日中)も撮影する可能性は十分にありますし、リクエストがあれば風景写真の撮影講師もさせて頂くかもしれません。

既にカメラマンとして生計を立てられている方にも、定職やアルバイトをしながらいつかは「カメラマン」や「写真家」になりたいと願っている方には本当におすすめです。

本書を読むことで「自分は他の仕事に就きながら、純粋に好きな作品だけを撮り続けたい」と気付きが得られたり、逆に「カメラマンをしながらでも作品と並行して写真一筋で食べていきたい」と決意する後押しをしてくれるかもしれませんよ。

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